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浦和地方裁判所 平成9年(ワ)732号 判決 1999年3月19日

原告

向井英臣

被告

田中和枝

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、連帯して一九五万四三〇一円及びこれに対する平成六年八月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その九を原告の、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、連帯して四二四四万八六九二円及びこれに対する平成六年八月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告田中和枝(以下「被告田中」という。)運転にかかる被告村瀬修一(以下「被告村瀬」という。)所有の普通乗用自動車(以下「被告車両」という。)が、原告搭乗中の普通乗用自動車(以下「原告車両」という。)に追突し、原告に傷害を負わせた交通事故(以下「本件事故」という。)につき、原告が、被告車両の運行供用者である被告らに対し、自賠法三条に基づき損害賠償を請求した事案である。

一  前提となる事実

1  被告車両は、平成六年八月二七日午後九時五〇分頃、埼玉県新座市東北二丁目三一番一〇号先の交差点において、被告田中の前方不注意による過失により、一時停止中の原告の息子訴外向井都(以下「訴外都」という。)が運転する原告車両に後方から追突した(争いがない)。

2  被告村瀬は、被告車両を所有する者であり、被告田中は被告車両の貸与を受けてこれを運転していた者であり、いずれも運行供用者である(争いがない)。

3  原告は、本件事故により、頸椎捻挫、左頸腕神経痛、第四・五・六椎間板変形障碍、腰椎捻挫、左座骨神経痛の傷害を受け(甲二ないし五並びに七及び一四)、次のとおり入通院し治療を受けた。

(一) 平成六年八月二七日から同月二九日まで新座志木中央総合病院 通院三日(甲三)。

(二) 平成六年八月三〇日から同年九月一二日まで三芳野病院 通院一二日(甲二、九)。

(三) 平成六年九月一三日から同年九月二四日まで三芳野病院入院一二日(甲九、一二)。

(四) 平成六年九月二四日から同七年二月二八日まで鶴ヶ岡医院 通院一一七日(甲四)。

(五) 平成七年三月六日から同九年四月七日まで至誠堂病院 通院四三日(甲五、七、八)。

(六) 平成六年一〇月一八日から同八年一〇月二八日まで烏山竹庵(指圧処) 通院一一日(甲一〇)。

4  原告は、本件事故により、頸椎捻挫による左頸腕神経痛、左足の痛み、しびれ等の障害を負っており、右障害は、「局部に頑固な神経症状を残すもの」として、自賠法施行令二条別表後遺障害等級表(以下「後遺障害等級表」という。)第一二級一二号に当たるが、後記5の事故による後遺症のため、後遺障害等級の認定はなされなかった(甲二二)。

5  原告は、平成元年一二月一七日に、交通事故(以下「別件事故」という。)により、頸椎捻挫、頸椎損傷の疑い、腰部挫傷、右上腕神経麻痺、頭部外傷等の傷害を受け、同四年九月三〇日、頸部痛、頭痛、両側肩から手指にかけての痺れ、腰痛、両手の握力減弱、頸部運動障害等の障害を残して症状固定となり、後遺障害等級表第一二級一二号に該当するとの認定を受けている(乙一、九、一〇、原告)。

6  原告は、被告らから、本件事故に基づく損害賠償として、次のとおり、合計四七七万二一六五円を受領した(治療費、休業損害については、争いがなく、交通費については、弁論の全趣旨により認められる。)。

治療費 一一七万〇八〇〇円

休業損害 三五七万八二二五円

交通費 二万三一四〇円

二  争点

1  本件事故と相当因果関係のある損害の有無、範囲及び損害額。

2  原告の本件事故による損害について、本件事故のみならず別件事故も寄与している場合に、損害額をどのように算定すべきか。

三  争点についての当事者の主張

1  原告

(一) 争点1について

原告は、本件事故によって、頸椎捻挫、左頸腕神経痛、第四・五・六椎間板変形障碍、腰椎捻挫、左座骨神経痛の傷害を受けており、右傷害のために原告が被った損害額は、次のとおりである。

(1) 治療費等

<1> 治療費 一六三万四三〇〇円

リハビリ治療費六万五〇〇〇円(烏山竹庵 五〇〇〇円×一三回)を含むものであり、一一七万〇八〇〇円が既に被告から支払われているので、四六万三五〇〇円を請求する。

<2> 入院雑費 九四〇〇円(テレビ代)

<3> 交通費 六万三八五〇円

タクシー代三万一三八〇円、レンタカー代二万八〇一〇円、電車・バス代四四六〇円の合計六万三八五〇円のうち既払金を除く四万三〇八五円を請求する。

(2) 休業損害 四二六万二八二五円(事故日から平成七年四月までの分)

原告の平成六年二月及び同年三月の月収の平均六〇万八九七五円に休業期間の七か月を乗じた金額であり、うち三五七万八二二五円は既に被告らから支払われており、また、休業期間内に給与として二六万三三〇〇円が支払われているので、その分を差し引いた四二万一三〇〇円を請求する。

(3) 逸失利益等 四九六九万八四〇〇円

ただし、基礎とするべき原告の収入を年収七三〇万円、労働能力喪失率を五〇パーセント、労働能力喪失期間を二〇年として、新ホフマン係数一三・六一六によって算出した額である。

(4) 慰謝料

<1> 入通院慰謝料(一一〇万七二〇〇円)

入院日数合計一二日、通院日数合計一七五日を基礎として算出した額である。

<2> 後遺症慰謝料(二二四万円)

後遺障害の程度を後遺障害等級表第一二級一二号であることを基礎に算出した額である。

(5) 弁護士費用 四〇五万円

(二) 争点2について

本件事故前には、別件事故による後遺障害はほとんど治癒していたのであるから、別件事故の本件事故による損害に対する寄与割合はせいぜい一割か二割である。

2  被告らの主張

(一) 争点1について

(1) 治療費等

<1> 治療費

新座志木中央総合病院、三芳野病院、鶴ヶ岡医院での治療費については、原告の主張を認めるが、至誠堂病院及び烏山竹庵での治療費については、本件事故と相当因果関係がなく、本件事故によって生じた損害とはいえない。

<2> 交通費

鶴ヶ岡医院は原告の住所地の近所にあり交通費は不要である。その他の交通費についても争う。

(2) 休業損害

本件事故によって生じた休業損害は、右の算定の基礎とするべき一日当たりの収入二万〇七六五円(本件事故前の三ヶ月間の平均収入額)に、休業日数一八五日を乗じた額から、休業期間中支払われた一部給与二六万三三〇〇円を減じた三五七万八二二五円である。

(3) 後遺症逸失利益

本件事故当時、原告の別件事故による後遺障害は治癒していなかったのであり、原告の本件事故後の後遺障害は、本件事故によって生じたものではない。

仮に、原告の本件事故後の後遺障害が本件事故に起因しているとしても、原告は、別件事故の際の示談で、合計三七一〇万七九五一円の示談金の支払いを受けており、右金額から逆算すると、既に労働可能全期間の逸失利益を取得しているのであるから、本件事故による後遺症逸失利益は存しない。

仮に、右主張が認められないとしても、後遺障害の内容がむち打ち症であり、程度が後遺障害等級表第一二級一二号である本件においては、後遺障害による逸失利益の額の算定に当たっては、労働能力喪失率は一四パーセント、労働能力喪失期間を三年、基礎とするべき原告の収入を平成五年度の年収五八九万円として算定するのが妥当である。

(4) 後遺症慰謝料

原告の本件事故後の後遺障害は、別件事故によって生じたものであって、本件事故とは因果関係がないから、後遺症慰謝料は、本件事故による損害としては認められない。

(二) 争点2について

本件事故により原告に発生した損害については、別件事故における後遺障害が寄与しているから、本件の損害額の算定においてこれを斟酌すべきである。

そして、別件事故の症状固定日(平成四年九月三〇日)から本件事故日(平成六年八月二七日)までわずか一年一一ヶ月しか経過していないこと、原告の有する後遺障害の内容・程度が、別件事故による後遺障害とほとんど同じかないしは軽減していること等から、本件事故によって発生した原告の損害に対する別件事故による原告の後遺障害の寄与割合は七割を下回らない。

第三裁判所の判断

一  前記第二、一の前提となる事実並びに証拠(甲一五、原告)及び後記括弧内の各証拠によれば、次の事実が認められる。

1  原告の本件事故による傷害についての治療の経緯

原告は、本件事故により、頸椎捻挫、左頸腕神経痛、第四・五・六椎間板変形障碍、腰椎捻挫、左座骨神経痛の傷害を受け、次のとおり、入通院し、治療を行った。

(一) 原告は、事故当日の平成六年八月二七日より同月二九日まで三日間、新座志木中央総合病院に通院し、同病院で頸部捻挫の診断を受け、投薬治療等が施された(甲三)。

(二) 原告は、平成六年八月三〇日に、三芳野病院に通院を開始し、同日、同病院の医師長谷川俊哉は、頸推捻挫で全治三週間の見込みである旨診断している(甲二)。原告は、同病院では、投薬、リハビリ等の治療を受け、一二日間通院したが、原告の頸部から背中にかけての疼痛が緩和しなかったため、同医師の指示により、同月一三日、同病院へ入院し、その後、本人の希望により、同月二四日退院した(甲一二)。

(三) 原告は、平成六年九月二四日から同七年二月二八日まで、鶴ヶ岡医院へ一一七日間通院し、同医院において、首から腰のマッサージ治療を受け、同医院では、「頸部鈍痛、左上肢にやや放散痛」の症状があるため外傷性頭頸部症候群と診断された(甲四)。

(四) 原告は、その後、平成七年三月六日から同九年四月七日まで、至誠堂病院に四三日間通院した(甲八)。

(五) 原告は、右の通院及び治療と平行して、平成六年一〇月一八日から平成八年一〇月二八日までの間に、計一一回烏山竹庵(指圧処)において気功治療等の治療を受けている(甲一〇)。

2  原告の職業、収入など

(一) 原告は、本件事故以前から、有限会社奥山理容において理容師として勤務していた。本件事故の前年である平成五年の原告の年収は、五九八万円であり、また、同六年一月から八月までの収入が四九六万七〇〇〇円であり、うち同年五月から七月までの三ヶ月の月収の合計は、一八六万八八九〇円である(甲二三の1、乙一二の1、一六)。

(二) 原告は、本件事故の翌日の平成六年八月二八日より同七年二月二八日まで合計一八五日間、理容師としての仕事をほとんど休業した(乙一二の1ないし同6)。

(三) 原告は、平成六年一二月ころから、理容師としての仕事を少しずつ再開したものの(乙一二の4)、後遺障害により右手の小指に力が入らない、疲れやすい等の理由で次のとおりの収入しか得られていない。

平成六年八月二八日より同年一一月三〇日まで 〇円(乙一二の1ないし3)。

平成六年一二月一日より同年一二月三一日まで 八万七〇〇〇円(乙一二の4)。

平成七年一月一日より同年一二月三一日まで 二九六万二〇〇〇円(甲二三の2)。

平成八年一月一日より同年一二月三一日まで 三七二万円(甲一八の1)。

平成九年一月一日より同年一二月三一日まで 三七二万円(甲一八の2)。

平成一〇年一月一日より同年六月末まで 一七一万円(甲一八の3)。

3  症状固定時期について

原告は、至誠堂病院には、平成七年三月から同年六月二〇日まで合計三四回通院しているが、その後は、平成八年二月に一回、同年五月に五回、同九年三月に二回、同年四月に一回、同年一二月に一回通院しているだけであること(甲八、二一)、及び、平成六年八月二八日から同七年六月二〇日まで継続的に通院治療をしているのに、右以降は、通院の回数が激減していること、並びに、三芳野病院では、同六年八月三〇日に全治三週間の見通しと診断されているなどの前記認定の治療の経緯からすれば、原告の症状固定時期は、本件事故から約一〇ヶ月経過した同七年六月二〇日と認めるのが相当である。

これに対して、至誠堂病院の医師藤田哲弥は、平成九年三月一九日、原告について、頸椎捻挫、左頸腕神経痛、第四・五・六椎間板変形障碍、腰椎捻挫、左座骨神経痛であり、なお当分加療を要する旨の診断をし(甲五)、同年四月一八日にも、同内容の診断をし、気候の変化により未だ症状が悪化するので治療を続けている旨の診断書を作成し(甲七)、同年一二月八日、「前記症状は、後遺症として一三級と思う」旨の診断書も作成している(甲一四)が、原告は、平成七年六月二一日から同八年二月四日まで至誠堂病院に通院しておらず、また、同年二月六日から同年五月四日までも同病院に通院していないこと、さらに同年六月から同九年二月までも同病院に一度も通院しておらず、その後も同九年三月に二回、同年四月に一回、同年一二月に一回通院した以外は、同病院に通院していないものであること(甲八)及び前記認定の治療の経緯を考慮すると、症状固定時期は、前記のとおり認定するのが相当である。

4  別件事故による傷害の内容、治療経過など。

(一) 原告は、平成元年一二月一七日、別件事故で傷害を受け、次のように入通院治療を行った(乙七の1ないし35)。

原告は、別件事故当日、三芳野病院に通院し、同病院の医師草野仁也(以下「草野」という。)は、頸椎捻挫、頸椎損傷の疑い、腹部挫傷、血尿、頭部外傷、右上腕神経麻痺及び右上腕痛、右膝挫傷、腰部挫傷の診断をした。原告は、平成四年九月三〇日まで、同病院に通院(実通院日数四五三日)し、その間に、三回(合計四二三日間)入院した。

原告な、同病院で、投薬、リハビリ等の治療を受けたが、頭痛、両側肩から手指までシビレ、腰痛、右下肢痛、右膝関節痛等の症状が改善せず、同四年九月三〇日、後遺障害等級表第一二級一二号に該当する次の後遺障害を残し症状固定となった(乙九)。

握力

右一五

左一七(両側減弱)

頸椎運動障害

前屈三〇度

後屈一〇度

右屈二〇度

左屈二〇度

右回旋一五度

左回旋一五度

なお、医師草野が同日作成した診断書には、「長期リハビリにても変化少なく今後回復の見込みないと思われます」との記載がある(乙九)。

(二) 原告は、右事故による損害金として、合計三七一〇万七九五一円を受領し、示談している(乙一一)。

5  本件事故と原告の損害との相当因果関係について

前記1ないし4認定のとおり、原告は、平成元年一二月の別件事故により、同四年九月三〇日、後遺障害等級表第一二級一二号に該当する障害を残して症状固定となっており、原告の別件事故による後遺障害はその部位、内容が本件事故後の原告の後遺障害と重複しており、また、その入通院日数から見ても、別件事故による傷害の方が本件事故よりはるかに重かったものと認められる。

また、別件事故による後遺障害の症状固定日から本件事故日までは、約一年一一月しか経過しておらず、症状固定日において回復の見込みがないと診断されていた事実に照らすと、本件事故当時原告の別件事故による後遺障害は相当残存していたと認められる。

そして、本件事故の後遺症認定でも、原告の後遺障害は、別件事故に起因するものとして、本件交通事故の損害とはいえないと認定されていることは、前記第二、一4のとおりである。

しかし、原告は、前記認定のとおり、別件事故による症状固定後の平成五年には、理容師として五九八万円の年収をあげており、同六年には、一月から八月まで四九六万七〇〇〇円の収入をあげており、少なくとも表面上は原告が理容師として通常どおり仕事を遂行することが可能な程度にまで治癒していたものであることからすると、本件事故により前記のような後遺障害が残り、症状固定後も理容師として十分な仕事をすることができなくなったことも事実であり、右によれば、原告の本件事故による損害については、原告の別件事故による後遺障害と本件事故の双方に起因して生じたものであることは明らかである。したがって、別件事故による後遺障害については、原告の身体的疾患と同視して、本件事故による損害額を減額する要素として考慮すべきである。

そして、被害者に対する加害行為と加害行為前から存在した被害者の身体的疾患とがともに原因となって損害が発生した場合において、当該身体的疾患の態様、程度などに照らし、加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときは、裁判所は、損害賠償の額を定めるに当たり、民法七二二条二項の過失相殺の規定を類推適用して、被害者の身体的疾患を斟酌することができる(最判平成四年六月二五日・民集四六巻四号四〇〇頁)ところ、本件でも原告の本件事故による損害額を定めるに当たっては、原告の別件事故による後遺障害を斟酌して額を確定するのが相当であり、本件事故後の後遺障害と別件事故による後遺障害の部位・程度が似通っていることに加えて、別件事故日から本件事故日までの期間が短いこと及び原告が別件事故による極めて多額の示談金を取得していること等を勘案すると、本件事故による損害について、原告の身体的疾患すなわち別件事故による後遺障害の寄与割合を六割、本件事故の寄与割合を四割と評価するのが相当である。

二  次に、原告が本件事故により被った損害とその額について判断する。

1  治療関係費(一五三万七四二一円)

(一) 治療費(一四七万四一五一円)

治療費については、新座志木中央総合病院、三芳野病院、鶴ヶ岡医院での治療費は、合計一一七万〇八〇〇円であり、全額について、原告は被告らから受領済みである。

これに対して、至誠堂病院及び烏山竹庵での治療費については、本件事故との因果関係の有無に争いがある。

(1) 至誠堂病院での通院治療費について

前記認定事実及び証拠(甲五、七、一四)によれば、至誠堂病院での治療については、症状固定時期とみられる平成七年六月二〇日までの治療は、本件事故による傷害を治療するために必要かつ相当な治療であると認められるから、右期間までの同病院の治療費(治療費用全額の三八万三六五〇円に、右当日までの合計通院日数三四日と全通院日数四三日との割合を乗じた治療費三〇万三三五一円)は、本件事故と相当因果関係がある損害であると認められる(甲八)。

(2) 烏山竹庵での通院治療について

前記認定事実のとおり、原告は、本件事故日以前の平成六年四月一二日及び同年五月九日に烏山竹庵で治療していた事実が認められ、また、他の病院に通院しながら烏山竹庵に通院していた事実が認められる。

右によれば、その治療が医師の指示に従ってなされた等の特段の事情がない本件では、烏山竹庵の治療が本件事故による傷害を治療するために必要かつ相当な治療であったとは認めることはできず、したがって、烏山竹庵の治療費を、本件事故と相当因果関係の範囲内にある損害とは認めることはできない。

(3) よって、本件事故の治療として必要かつ相当な治療は、新座志木中央総合病院、三芳野病院、鶴ヶ岡医院及び至誠堂病院での平成七年六月二〇日までの治療であり、損害額は、合計一四七万四一五一円である。

(二) 入院雑費(九四〇〇円)

前記認定のとおり、原告の三芳野病院への入院は、本件事故と相当因果関係がある損害と認められるのであり、入院期間が一二日間であることを勘案すると、本件事故による入院雑費としては、原告主張のとおり九四〇〇円であると認めるのが相当である。

(三) 通院交通費(五万三八七〇円)

前記認定のとおり、三芳野病院等への通院費用二万三一四〇円は、本件事故と相当因果関係のある損害であるが、既に全額が被告らから原告に支払済みである。また、鶴ヶ岡医院は、原告の住所とかなり近いところにあるため、交通費は不要である。そして、至誠堂病院については、原告の傷害の内容及びその程度等に鑑みると、原告が右通院に要したタクシー代三万〇七三〇円(甲一九の1ないし48)は、本件事故と相当因果関係の範囲内にある交通費と認められ、原告が主張するその余のレンタカー代等については、本件事故と相当因果関係がある損害と認めるに足りる証拠はない。したがって、原告が請求している既払金を除いた交通費四万三〇八五円については、三万〇七三〇円の限度で理由がある。

2  休業損害について(四五五万八五八三円)

前記認定事実によれば、原告の本件事故前の三ヶ月間の収入は、合計一八六万八八九〇円であるから、それを日数九二日で除した二万〇三一四円を損害額算定の基礎とすべき一日当たりの収入額とするのが相当である。

そして、本件事故のあった日の翌日である平成六年八月二八日より症状固定日たる平成七年六月二〇日までの計二九七日が休業(減収入)日数であり、また、原告は、平成六年八月二八日から同七年六月二〇日までに一四七万四六七六円(平成六年一二月の収入八万七〇〇〇円に、同七年一月一日から同年六月二〇日までの収入を、原告の同七年の年収二九六万二〇〇〇円から日割計算で算出したもの)の収入を得ていた事実が認められる。

したがって、原告の休業損害(減収入損害)は、一日当たりの平均収入二万〇三一四円に、休業(収入減少)日数二九七日を乗じた金額から、原告が休業期間中に得ていた収入一四七万四六七五円を控除した四五五万八五八三円であると認められる(なお、原告は、休業損害として既に三五七万八二二五円を受領している。)。

3  後遺症逸失利益(六四二万〇一六二円)

原告の後遺障害の内容及び程度は前記認定のとおりであり、加えて、原告の職業が理容業であり、手先のしびれ等「局部に頑固な神経症状を残すもの」という後遺障害が直接仕事及び収入に影響することを考えると、原告の後遺障害による労働能力喪失割合は、二〇パーセントであると認めるのが相当である。

また、労働能力喪失期間は、前記認定事実の原告の後遺障害の内容に照らして症状固定日から五年間を越えないものと認めるのが相当である。そして、原告が本件事故当時得ていた収入額は前記認定のとおり一日当たり二万〇三一四円であるから、右の期間に原告が失うことになる利益からライプニッツ式計算により中間利息を控除して後遺障害による逸失利益の症状固定日における原価を算出すると、次の計算式のとおり、六四二万〇一六二円となる。

(計算式)七四一万四六一〇×四・三二九四×〇・二=六四二万〇一六二

4  慰謝料(三八〇万円)

(一) 入通院慰謝料

原告の本件事故による入通院期間は、前記前提事実のとおりであるが、右入通院期間、原告の傷害の内容、程度及び治療経過等に照らすと原告の本件事故による入通院慰謝料としては、一一〇万円が相当である。

(二) 後遺症慰謝料

また、原告の後遺症慰謝料としては、前記認定の労働能力喪失期間及び労働能力喪失率、その他前記認定事実に照らすと二七〇万円が相当である。

(三) そこで、右合計三八〇万円が慰謝料相当額と認められる。

5  以上によれば、前記認定の原告の損害金の合計一六三一万六一六六円に〇・四を乗じた額六五二万六四六六円から被告らの既払い金四七七万二一六五円を控除した一七五万四三〇一円を被告らの賠償するべき損害金と認めるのが相当である。

6  弁護士費用

本件事故の内容、審理経過、認容額に照らすと、原告が被告らに対して本件事故による損害として賠償を求め得る相当因果関係の範囲内にある弁護士費用の額は、二〇万円とするのが相当である。

三  よって、原告の本訴請求は、主文掲記の限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法六一、六四条を、仮執行宣言について同法二五九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 設楽隆一)

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